「ヘコむな、この10年が面白い!」を読む

 『今のままでよいと思った瞬間から、経済は悪くなるのです。(P208)』

この一見矛盾に満ちた言葉こそ、現代日本の問題を言い表しているのではないかと思います。本書は、海外駐在約30年の経験を持ち異邦人視される著者の視点から「ヘコんでいる」ように見える日本人と日本が、これからの10年で再び活力のある国にするためにはということについて、著者の主張が書かれた本です。
正直、読みやすい本ではないなというのが率直な感想です。その理由は、著者の主張が多すぎて章立てと合っていなかったり、先に述べたことと若干矛盾していたりするからです。しかしながら、ひとつひとつの主張はとても的を得ていると感じられました。「日本はモノづくり国家から脱却すべし」「日本はコト興しをすべし」「環境問題をチャンスにすべし」という大きな提案から、アップルのプラットフォーム戦略や欧米のODM企業などの最近の成功事例の紹介まで、ほぼ全てがおそらく的を得ているのだろうなというものばかりでした。
著者はこのような考えに自信の海外赴任30年の経験から至ったのでしょうか。もしそうだとすれば(この本に書かれていることを経験的に導き出したとすれば)素晴らしいと思います。だからこそ、これらの内からひとつふたつの主張を抽出し、より深掘りしてもらいたい、そう感じました。


 以下面白かった部分を紹介します。

中国は単なる製造国家ではない(P64)

台湾系OEM企業との水平分業スタイルとグローバル化による超大量生産により成長したと考えられている中国は、いまや全世界の最先端の技術が集まる場所であり、製造技術だけではなく設計技術も非常に高い。よって、日本のコストの高いエンジニアのリソースを設計に費やすことすら非合理的である、という意見です。
別の視点から見ると、設計現場のエンジニアは一回設計したら終わりではなく、製造上の困難性を製造現場のエンジニアと一緒になって解決していくことが必要となるから、距離(物理的にも精神的にも)が近いほうが得することが多いのかもしれません。

日本人はモノを規格化してその成分や原料コスト、製造工程にかかる費用からその商品価値を決めます。欧米人はモノに歴史やストーリーや憧れなど、商品価値を高めることであれば何でも乗せて飾り立てます。この「飾り立てる」ことがすなわちマーケティングなのです。(P170)

自分は今までモノを作ったら(原価が分かってしまうから)儲からない、と思っていましたがその考え方自体日本人の発想だったんだと気付かされました。


 冒頭の「今のままで、、、」の言葉のあとに筆者は訒小平の「先富論」をもじって「先進論」という考え方を提案します。それは「先に進める者から進めばよい、先に行った人はあとから来る人を引っ張りあげなさい」という概念です。自分はこの考え方は、今の日本の教育には無いエリート教育に繋がる部分があるのではないかと思いますが、著者がどのようにこの考え方に思い至ったかは本書で書かれておりません。この考え方だけではなく、ひとつひとつの主張に対して著者の抱負な経験からより深掘りした主張を聞きたいと思いながら本を閉じました。


 最終ページの”本書は処女作品”に期待しています。


 [他人に勧める度合:★★★★☆☆☆☆☆☆]

ヘコむな、この10年が面白い!

ヘコむな、この10年が面白い!